
体育会系男子の事情
ルゥハンとシウミン一年生の時のお話
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「いーち、にー、さーん、しー」
「「ごー、ろーく、しーち、はーち」」
午後から始まる、水球部の掛け声が聞こえた。
「う…ん」
気づいたら、俺はプールサイドに上がっていて…
隅っこでストレッチするときのマットの上に寝ていた。
「お、気づいたか?」
「…はい」
目を開けるとコーチが居て足をマッサージしている。
「どうだ、足の状態は?
病院に行って診てもらうか?」
俺は、起き上がった。
コーチは手を離し俺は足を触り確認する。
「いえ、大丈夫です。
…それより。」
「ん?」
「えっと…キム…は?」
「キム?」
「泳いでた…あの、」
やばい…名前、覚えてねぇ。
キムなんて何人もいるし…俺は頭を片手で触り悩ませていると
「ああ、ミンソクか?」
「は、はい。
ミンソクはどこに?」
俺は、キョロキョロと回りを見渡す。
今は、既に水球部が始まっていてプールはバシャッバシャッと音をたてて騒がしい。
一瞬だけ見えたんだ。
多分、あいつが俺を…
「ああ、帰ったよ。」
「帰った?!」
なっ…
なんだよ…そんなにあっさり帰るもんなのか?
「今なら…まだ、寮にいるんじゃないか?」
「寮…?」
…ま、いっか。
どーせ、明日も来るんだろうし。
お礼くらい、言ってやる。
ミンソク…ね。
ついでに名前も覚えといてやるよ。
ん?
「すみません、"今なら"って…どういう意味…」
かさっ
コーチのジャージのポケットから、何か紙のようなものが落ちた。
「あ…」
プールサイドは当たり前だが水浸しで…
じわりじわり…と、水を含む紙切れ…
そう、彼の"退部届"だった。
ドタドタドタ…!
俺は、水泳部の寮の中に入り、ミンソクの部屋を探す。
「ミンソク!」
俺は次々とドアを開ける。
"どーゆーことですか?これ。"
"責任取るんだそうだ。"
「ミンソク!どこだ!!」
ビックリしている顔を無視してすぐ次のドアを開けていく。
"え?"
「どこだよ!!」
"「自分のせいだ」って言ってたぞ。
お前が溺れた理由"
「…どうした?」
彼は、段ボールに荷物を積めていた。
あまりの冷静な口振りに息が一瞬止まる。
"「退部します。」って聞かなくてな。
受け取るしかなかったんだ。"
「ど、どーゆーことだよ!!」
「何が?」
彼は、俺をじっと見つめる。
「俺は、溺れてなんかない!!」
ああ、言いたいことはそれじゃない。
…それじゃないけど!
そう言うと、彼は再び荷物を積める。
「お前の要求通りやめるんだ理由はどうあれ構わないだろ?」
「よくない!俺の沽券にかかわる!」
チッ
かっこつけて辞めやがって…!
なんなんだこいつ!!
俺は、しゃがんで座ったままこっちを見ようともしないのか気にくわなくて後ろから肩を握る。
「おい!無視してんじゃねーよ!」
「あっ…!!」
え?
俺は咄嗟に、手を離す。
彼は、一瞬苦痛に顔を滲ませたと思ったら軽く手を肩に乗せた。
「な、なんでもない…
気にするな。」
気にならないわけがない…。
俺は彼のシャツの背中をまくる。
「お、おい!何す…!」
「…!!」
彼の背中は、引っ掻いた傷が沢山あった。
抉られて血が滲んでいるところもある。
さっきまで、なかったよな?
まさか…
「俺が…?」
ああ…思い出した。
"はぁ…はぁ!!"
足が役に立たない俺は彼にしがみついて…
必死に息を吸おうとして
彼の肩を押さえつけて上に這い上がろうとして…!
水が…水が俺を裏切ったんだ。
その時のことが鮮明になってきてガタガタ体が震える…
止めようと腕を握っても止まらない。
治まれ…!!
ぎゅう…
と、抱き締められた。
「…すまない。
嫌なことを思い出させたな。」
「み、ミンソク…」
何故だか、彼に抱き締められると震えは止まる。
なんだろ…
こんな風に抱き締められると安心する。
彼が離れようとすると…腕を掴む。
「ま、まだ離れるな。」
彼は頷いて、背中をポンポンと叩く。
俺はまるで、子供扱い。
普通ならムカッとして離れるはずなんだ。
なのに…
とくん、とくん…
「責任とれ。」
「え?」
「そんな理由で勝手に辞めるなんて
許さない。」
俺は、少しだけ体を離し…
彼を見つめて…
バタバタ…!!
何人かがドアから倒れてきた。
「ミンソク!」
振り向く先には、スホがいた。
知らぬ間に出入り口にはギャラリー…2年、3年、4年までいる。
なんでいつの間にこんなに増えて…
「ミンソク!よかったな!!」
と、真ん中に無理やり入ってくる。
心の中でチッと舌打ちする。
「…スホ、なんでお前ここに。」
「お前が、怒鳴ってやって来たって聞いたからな!
心配に決まってんだろ!」
ばっとスマホを見せられた。
さっきまでのやりとりが録画されている。
「なっ…」
「暴力とか振るったら即辞めさせてミンソクが辞めるのを阻止しようと思ってたけど
まさか、お前から言うとはな!」
く…
気づかなかったなんて不覚…!!
「ルゥハン…本当にいいのか?」
スホが真ん中にいると言う違和感で手を離すと
彼は俺をじっと見つめる。
その目、マジでちょっと…
苦手だ!
俺は、視線を逸らした。
「いいも悪いも…ないだろ?
とにかく、荷物は積めるな!」
ガンッと、段ボールを足で蹴り
集まっている入り口から逃げるように外に出る。
ああ…!
ムカつく…!!
なんなんだよ!!
触られた場所が熱くて…
ドキドキが止まらない…!!
ちっいいところで…

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